神戸地方裁判所 昭和42年(ワ)1037号 判決 1969年5月26日
原告 西村雅司 外七名
被告 株式会社関西住宅
主文
被告は原告らに対し別紙登記目録記載の各登記の抹消登記手続をなし、別紙物件目録第二記載の建物を明渡せ。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一、(当事者双方の申立)
原告らは、主文と同旨の判決を求め、被告は、「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求めた。
第二、(原告らの請求の原因)
一、別紙物件目録第一記載の建物(以下、本件建物という。)は、被告が建築した通称「山手コーポ」というビルデイングで、その中に区分所有権の対象となる四五戸を包含するものである。
二、原告らは、被告から分譲を受けた右四五戸の全区分所有者の一部の者で、また、全区分所有者から選任された本件建物の管理者である。
三、別紙物件目録第二記載の建物の部分(以下、本件事務所という。)および同目録第三記載の建物の部分、(以下、本件車庫という。)は、いずれも本件建物の一部であつて、「建物の区分所有等に関する法律」三条一項にいう「建物の部分」に該当する本件建物の共用部分である。即ち、
(1) 本件事務所のうち別紙第一図面赤斜線部分(以下、事務室という。)は、その壁面には本件建物の火災報知機・ガレージブラケツト・玄関天井灯・玄関ブラケツト・天井灯・山手コーポ看板灯・廊下常夜電灯・階段常夜電灯のスイツチ類があり、その壁芯には配電盤ボツクス・貯水槽溢水警報装置・エレベーターの非常警報装置および緊急電話装置が、その壁の中には動力・電灯等の全住宅のメインスイツチボツクスがそれぞれ埋め込まれており、更に玄関に通じる廊下に面した部分のガラス窓を大きくとる等して、本件建物の管理をはじめとして、外来客の応接案内、不審者の発見、郵便物の保管等の便宜のため設けられたもので、事務室に続くガラス障子で仕切られたその余の部分は専住の管理人の居住し、また、地下へ出入する自動車を監視すべき場所として右事務室と不可分な一体をなしている。
(2) 本件車庫には本件建物全体を支える柱が存在するほか、その北側部分には塔屋にある貯水タンクと共に本件建物内の全住宅の飲料水等を供給するための貯水槽・給水ポンプおよびモーター二基、排水ポンプおよびモーター二基、配電盤が、その中央部分にはエレベーターピツト(基部)・階段室がそれぞれあり、その天井に沿つて中空には、水道給水管・消防水給水管・ガス管・排便管・雑用排水管の各基本部分が蜘蛛の巣の如く張り廻らされ、その安全、補修のため常時監視できるようになつている。
したがつて、右各建物部分は、いずれも構造上および利用上の独立性を有せず、区分所有の対象とはならないものであるから、原告らを含む本件建物の全区分所有者の共有に属するものである。
四、被告は、本件建物を分譲するに当り、当初管理人を雇い入れ本件建物の管理をしていたが、その後一方的に管理事務を中止し、本件事務所および車庫につき、被告を所有者とする別紙登記目録記載の各保存登記を経由し、何ら権原なくして本件事務所を占有している。
五、よつて、原告らは被告に対し右各保存登記の抹消登記手続と本件事務所の明渡を求める。
第三、(被告の答弁)
一、請求の原因一記載の事実は認める。
二、同二記載の事実のうち原告らが本件建物の全区分所有者の一部の者であることは認めるが、その余の事実は争う。
三、同三記載の事実のうち本件事務所および車庫が本件建物の一部であることは認めるが、その余の事実は争う。
本件事務所は、被分譲者たる原告らを含む本件建物の全区分所有者に対するアフターサービスのため管理人事務所として、また、本件車庫は、被分譲者の外、一般に対する営業用貸ガレージとして、それぞれ被告が設けたもので、いずれも被告の所有に属するものである。
四、同四記載の事実のうち被告が原告ら主張のとおりの各登記を経由し、本件事務所を占有していることは認めるが、その余の事実は争う。
第四、(証拠関係)<省略>
理由
一、被告が区分所有の対象となる四五戸を包含する通称「山手コーポ」という本件建物を建築し、これを原告らを含む本件建物の全区分所有者に分譲したことは当事者間に争いがなく、原告沖幸逸本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第五号証および右原告沖幸逸本人尋問の結果によれば、原告らが全区分所有者から選任された本件建物の管理者であることが認められ、この認定に反する証拠はない。
二、本件事務所および車庫がそれぞれ本件建物の一部であることは当事者間に争いがないところ、本件事務所および車庫が区分所有の対象となる建物の部分かどうかについて判断する。
前掲甲第五号証、原告沖幸逸本人尋問の結果により、真正に成立したと認められる同第二号証、第三号証の一、二、本件事務所の写真であることが認められる同第一号証の一ないし三、本件車庫の写真であることが認められる同号証の四ないし七、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる同第四号証の一ないし七および原告沖幸逸本人尋問の結果をそう合すると、
(1) 本件事務所は、壁等により区分された本件建物の部分であることのほか、その位置、構造および同所に設けられた諸設備の状況が原告ら主張のとおりであり(なお、本件事務所のうち事務室を除くその余の部分は、台所、浴室、便所の設備のある三部屋からなる居住用建物部分ではあるが、同所を使用するには事務室を通らなければならないから構造上区分された部分ではなく、事務室と不可分の一体をなすものである。)、本件建物の区分所有の対象となる四五戸の保安、管理のため必要不可欠の建物の部分であること、
(2) 本件車庫は、その位置、構造および同所に設けられた諸設備の状況が原告ら主張のとおりであり、その北側部分と中央部分との間にコンクリートブロツクからなる一応の仕切りが存在するものの、北側部分に行くには中央部分を通らなければならず、また階段室(尤も、地下室より一階に通ずる階段については、被告が一階の床に穴をあけたままで階段を設置せず、そのまま放置していたので、原告らにおいてこれを設置した。)および中空にある原告ら主張の水道管等とも場所的に明確に区分されていない状態であり、なお、本件建物の分譲契約に際しては被分譲者の専用ガレージとして明示され、その後、被分譲者の専用ガレージとして使用されていたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
してみると、本件事務所は、「建物の区分所有等に関する法律」一条にいう「構造上区分された部分」に該当するが、同条にいう「独立して建物としての用途に供することができるもの」には該当せず、また、本件車庫は、同条にいう「構造上区分された部分」に該当しないばかりでなく、右認定事実に近時の自動車普及の実情を合せ考えると、本件建物の全区分所有者の共用にのみ供すべき建物の部分であつて、同条にいう「独立して建物としての用途に供することができるもの」には該当しないから、いずれも区分所有の対象とはならず、結局原告らを含む本件建物の全区分所有者の共有に属するものといわなければならない。
四、しかるに、被告が本件事務所および車庫につき、被告を所有者とする別紙登記目録記載の各保存登記を経由していることは当事者間に争いがないから、右各保存登記は実体に符合しない無効のものというべく、また、被告が本件事務所を占有していることは被告の自認するところであるが、前掲甲第二号証、同第四号証の一、二および原告沖幸逸の本人尋問の結果によれば、被告が原告らを含む本件建物の全区分所有者に分譲をするにあたり、被告において本件建物の管理をする旨を約し、右約旨に基づき本件事務所に専従の管理人を置いて本件建物の管理を始めたが、その後一カ月程して管理を中止し被分譲者との間の右契約を一方的に破棄したことが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はなく、他に本件事務所を占有する権原のあることは被告において主張かつ立証しないところである。
五、したがつて、被告は原告らに対し、本件事務所および車庫についての別紙登記目録記載の各保存登記の抹消登記手続をし、本件事務所を明渡す義務があることになる。
六、よつて、原告らの本件請求は理由があるから正当としてこれを認容することとし、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 谷口照雄 仲西二郎 井深泰夫)
物件目録
第一、
神戸市生田区中山手通六丁目二番地の一、二番地の二地上
鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根地下一階付八階建
一階 三九七・五三平方米
二階 四五八・八一平方米
三階 四六〇・〇三平方米
四階 四六〇・〇三平方米
五階 四六〇・〇三平方米
六階 四三八・三三平方米
七階 四一〇・六四平方米
八階 四〇・四四平方米
地下一階 三五七・一一平方米
第二、
第一記載建物のうち一階の一部(別紙第一図面赤線で囲んだ部分)
床面積 三八・四七平方米
第三、
第一記載建物のうち地下一階の部分(別紙第二図面赤線で囲んだ部分)
床面積 三四八・七〇平方米
登記目録
第一、
物件目録第二記載の建物(登記簿上、専有部分の表示、家屋番号・神戸市生田区中山手通六丁目二番の一の三七、種類・事務所、構造・鉄骨鉄筋コンクリート造一階建、床面積・一階部分三八・四七平方米)についての
神戸地方法務局昭和四二年五月九日受付第九七六一号所有権保存登記
第二、
物件目録第三記載の建物(登記簿上、専有部分の表示、家屋番号・神戸市生田区中山手通六丁目二番の一の三四、種類・車庫、構造・鉄骨鉄筋コンクリート造一階建、床面積・地階部分三四八・七〇平方米)についての
神戸地方法務局昭和四二年五月九日受付第九七六一号所有権保存登記
第一図面<省略>
第二図面<省略>